2012年5月9日水曜日

HDDから愛をこめて4

これもHDDから発掘。
ちょっと長めのお話のサイドストーリーとして書いたものです。
主人公視点が本編、主人公友達と主人公彼女とそれぞれの視点で
かいたのですが本編で挫折しました。。。よくある話TT
本業の人ってやっぱりすごい。

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雨の街-彼の場合

「なぁ、齋藤」
声をかけると、暇そうに外を眺めていた親友は「何」という顔で顔をあげた。
「こないだの新歓コンパでさ」
「うん」
「途中で消えた子いたじゃん」
「うん」
「かわいいよな」
「うん」
こいつは昔から愛想がない。
出会ったときからそうだった。
なんで親友なんかやってるのか、未だに謎だが。
「かわいかったよな」
「うん」
もう一度繰り返した俺に、すこし間をおいて。
あいかわらず愛想のない返事を返した。
その彼女と、齋藤がつきあいだした、ということを
その数カ月後。
人づてに俺こと秋月公一は聞くことになる。

齋藤 敦という男は。
同性から見ても、いい男だと思う。
入学してから、彼女も何人かいたと思う。
何人か、というと誤解があるかもしれないが
ただたんにスパンが異様に短いというだけの話だ。
たいていの場合、女の子が怒ってふられることになるらしい。
どうして怒るのか、それも実はよくわかるのだが。
あえて言わない。
それが親友のスタンスだと思う。

「佐倉ちゃん」
「はい?」
俺が声をかけると、彼女はふりむいてにっこりと笑った。
経済学部。佐倉 舞。
今年2年になったばかり。
齋藤の彼女だ。
素直にきれいな子で、まっすぐに人を見て話す。
「なんですか?」
「齋藤のやつどうしてんの?」
「齋藤さん?
今日は一日史学棟にいるみたいですよ」
「あいつ最近姿見せないから」
「ああ、最近あっちにずっといるんです」
何かといっては経済棟に遊びにきていたやつだが、
最近ぱったり姿をみかけない。
「忙しいんだ」
「どうでしょうね。よくわかりません」
その口調は少し冷たい。
「どうかしたの?」
「よくある話です」
「?」
「だからよくある話」
「ああ、けんか」
「ちがいます」
ちょっと言葉に険がでる。
「ああ、浮気」
今度は黙る。
しまった図星だ。
「相手誰?知ってるの?」
「あじさい」
意味がわからない。
「すっごくきれいだった」
あいつはあれで結構な面食いだから
まぁ、きれいなんだろうなぁ。と素直に思う。
「でもこないだもデートしてたろ。
それこそ先週あじさい見にいった、っていってたじゃん」
「その前にもいってる」
「じゃ、大丈夫なんじゃないの?」
「別の人と」
「…」
しまった。返せなかった。
馬鹿。齋藤の馬鹿。
いや、この場合馬鹿は俺か。
「あたしそういうの大嫌い」
「そりゃそうだよな」
当たり前だ。
気まずい沈黙が落ちる。
「ジュース、飲まない?おごるよ」
「飲みます」
とりあえず話をかえた俺に彼女は笑顔で答えた。

それから少したって「あじさい」を見た。
ああ。なるほど。
青い着物姿が美しい。
となりの齋藤の幸せそうな顔。
お似合い、というには齋藤が少し足りていないけれど。
多分それは佐倉ちゃんにもよくわかってたんだろうけど。
そして結局のところそう思った通りの結果に
なったのだけれど、詳しい話は俺は知らない。


それから台風の季節が来て。
齋藤と連絡がとれなくなった。
図書館通いをしている佐倉ちゃんとなんとなく話して。
だいたいの想像がついた。
そんなとき、突然話があると、齋藤から電話があった。
指定の喫茶店にいってみると、なんともいえない顔の
齋藤がいた。
「元気そうじゃん」
「元気だよ。一応」
俺の言葉に、齋藤は返す。
席についてコーヒーをたのむ。
「佐倉ちゃん、大学変えるって知ってる?」
世間話のノリで俺から切り出す。
「知ってる。このあいだ聞いた」
「俺、ずいぶん相談にのった」
「それも聞いてる」
コーヒーが来たので、そこでひとまず話を終える。
齋藤はいまいちいごこちのわるそうな顔をしている。
「なぁ、齋藤」
「うん?」
「俺さ」
「うん」
「佐倉ちゃんのこと好きだってしってた?」
齋藤が固まる。
「話ってこのことだろ?」
小さくうなずくいてぼそりとつぶやく。
「…いつから?」
「最初の新歓のときから」
答えて、俺は続けた。
「ずっと好きだった」
「…ごめん」
「あやまんなよ」
「ごめん」
「漫才かよ。つい笑っちまうだろ。そういう対応されると。
俺が悪いような気になるだろ?」
「うん」
「おい…」
「いや、そうじゃなくて。 ごめん」
「だから…」
突っ込もうとする俺に齋藤は顔を伏せたまま言った。
「知ってたから」
「…だよな」
俺はため息をつく。
「今度は俺の番。聞いてもしかたないと思うけど、いつから?」
「多分、最初から」
こういうやつだよ。こいつは。
一度殴ってやりたい。いや、殴るのは今度にしとこう。
今はよくない。
なんとなくそんな気がする。
「帰るわ。俺」
「うん」
それだけ言い残して俺は店をでた。
雨があがっている。
青空にきれいな虹がでていた。
はぁ、と大きく息をついて俺は伸びをする。
青空みたいな気分だった。

◆◆◆

空は蒼穹。
足下にぽつりぽつりと赤い花。
秋の川辺を彼女と俺は散歩する。
踊るような足取りで彼女は歩く。
「葉みず花みず 秋の野に
ぽつんとさいた まんじゅしゃげ…」
歌うようにつぶやく声に、俺は後をつづける。
「から紅に燃えながら 葉のみえぬこそ さびしけれ…」
「知ってますね。秋月さん」
彼女はくるりと振り返って言う。
「齋藤が好きだろ。なんとなく調べた」
「あたしも好きなんです」
「詩が?花が?」
「どっちも」
簡潔にこたえて、彼女はころころと笑う。
すっきりした笑顔だった。
「俺はどっちもピンとこない」
「秋月さんは何がすき?」
「強いて言うなら桜かな。
花の時期も、そうでなくても俺は好きだよ」
「今の時期ならきっときれいに紅葉しているでしょう」
歌うように彼女はいう。
「ああ、きれいだと思うよ」
ほんとうにきれいだと思う。
花の頃も。
新緑の時期も。
紅葉をまとう姿も。
雪の中にたたずんでいてもきっときれいだろう。
「あいつさ、馬鹿だから」
「知ってます」
「怒らないでやってくれよな」
「怒ってません」
ころころと笑って彼女。
「俺も馬鹿だから」
「はい?」
「笑ってくれてもいいけど」
「ええ」
「初めてあったときから佐倉ちゃんが好きだよ」
「ありがとう」
花咲くような笑顔で彼女は答えた。

結局。
齋藤と俺は親友のままで。
(別件だが「一発なぐる」はやっておいた。後々のために)
この街には今日も雨が降って。
春の時期には桜がさいて。
そして。
あのきれいな桜は。
きっと違う街で咲いているだろう。

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斎藤はヒガンバナの少年の成長後のイメージです。
秋月くんはとてもいい男だと思います。


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